最高裁判所第二小法廷 昭和51年(行ツ)34号 判決 1978年4月21日
上告人 有限会社光楽園旅館
被上告人 帯広税務署長
訴訟代理人 青木正存
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人杉村英一の上告理由一の(1) について
民法八二六条所定の利益相反する行為にあたるかどうかは、専ら当該行為自体を観察して判断すべきものであつて、その行為の意図を考慮して判断すべきものではないから、本件土地の賃貸借契約が所論のような意図のもとにされたとしても、それにより同条所定の利益相反する行為になるものとはいえない。これと結論を同じくする原審の判断は、結局正当である。論旨は、採用することができない。
同一の(2) について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同一の(3) について
法人税法一三二条の規定の趣旨、目的に照らせば、右規定は、原審が判示するような客観的、合理的基準に従つて同族会社の行為計算を否認すべき権限を税務署長に与えているものと解することができるのであるから、右規定が税務署長に包括的、一般的、白地的に課税処分権限を与えたものであることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 栗本一夫 大塚喜一郎 吉田豊 本林譲)
上告理由
一 原判決は法令違反であります。
(1) (民法八二条の解釈に誤いがあると思われます)
本件、課税対象となつた借地権の設定契約(賃貸借)は、その賃料を清利ほか、三名の生活費にあてる目的でなされたものであり、生活費にあてる以上は、父母(大人)である清利と妻の費消する分が残りの未成年者の子二人の消費する分より多額であることは経験法則上明らかで、右契約は親権者清利及び妻と子である未成年者二人の利害相反する場合であるも、第一審(控訴審も同じ)の判断は利害相反行為の解釈について直接法律上の利害が反する場合にのみ、右民法規定が適用になると述べているが、それでは子供の利益が十分守られることは不可能になる場合が殆んどと思われるので、右、解釈には不満である。
もし、右、民法八二六条の本件賃貸借契約への適用があることとなれば、本件賃貸借は無効になり、賃貸借権はないこととなり、それに対する課税はありえず、判決に影響を及ぼすこと明らかであります。
(2) 本件課税処分は、国税通則法第一条にいう「国税法律関係の明確化目的、税務行政の公正な運営目的、国民の納税義務の適正な履行目的」に反した処分と思われます。
(イ) 「賃借権そのものが、契約内容として、又、その他法律効果として所有権と別に移転したならともかく、本件では契約では借地上の建物が譲られたに過ぎず借地権は所有権に含まれたものとして(所有権に混同して一体化したはず)所有権そのものの取引として移転しているのである。
それを無理に所有権の中から借地権を分離して「慣習上」そうであるからとして借地権の移転あつたものとして課税する処分は法律関係の明白でないままの課税という他ない。
(ロ) 又、借地権の評価についても、権利金、敷金、期間賃料の高低を全く考えずになしたもので、法律関係が明白でない。
(3) 又、本件更正処分の根拠とされた法人税法第一三二条は行政機関に対し、包括的、一般的、白地的に課税処分権限を与えたもので、これは、租税法律主義をとる憲法第八四条に違反し無効なものである。